「高級時計は資産になる」——そう言われるようになって、もうずいぶん経ちますよね。実際、ロレックスやパテック フィリップの一部モデルは、定価を大きく上回る価格で取引されています。
でも、この言葉には大きな落とし穴があるんです。値上がりしているのは、ごく一部のモデルだけだという事実。大半の高級時計は、買った瞬間に定価を下回ってしまいます。この記事では、2026年7月時点の市場データをもとに、高級時計の資産価値のリアルを、誇張なく整理していきますね。
※本記事は資産価値に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の時計の購入・売却を勧めるものでも、投資助言でもありません。相場は変動し、将来の値動きを保証するものではありません。
大前提:ほとんどの高級時計は「値上がりしない」

最初に、いちばん大事な事実からお伝えします。市場に存在する高級時計の大半は、中古価格が定価を下回ります。「時計は資産」というイメージは、一部の突出したモデルの印象が、全体に投影されてしまったものなんですね。
相場集計サイトWatchChartsの分析によれば、中古市場で定価を平均的に上回っているのは、実質的にロレックス(平均で定価の約+14%)とパテック フィリップ(約+22%)だけ。オーデマ ピゲはほぼ定価と同水準で、この3ブランドを除いた時計は平均で定価の約3割安で取引されています。定価割れした時計は、平均で価値の約35%を失うとされているんです。
しかも、この上位ブランドの中でさえ、全モデルが安泰なわけではありません。同じ分析では、定価を上回るモデルの割合はロレックスで約7割、パテック フィリップでは約半分にとどまります。つまり「高級時計だから値上がりする」のではなく、「値上がりする一握りのモデルが存在する」——これが正確な理解なんですね。
2025年のスイス時計輸出は本数ベースで約1,460万本と、数十年ぶりの低水準にありました。ロレックス、パテック フィリップ、オーデマ ピゲ、リシャール・ミルという4ブランドだけで市場の約半分を占めるという偏りも、この「一握りへの集中」を象徴しています。
定価を上回る「一握り」のモデル
では、実際にどのモデルが定価を上回っているのでしょうか。2026年7月時点の中古相場を、対定価倍率(中古相場÷定価)で見てみましょう。
| モデル | 状態 | 対定価倍率の目安 |
|---|---|---|
| パテック ノーチラス 5711/1A | 生産終了 | 約3〜5倍 |
| パテック アクアノート 5167A | 現行 | 約2.5倍 |
| ロレックス デイトナ 126500LN | 現行 | 約2〜2.3倍 |
| オーデマ ピゲ ロイヤルオーク(SS) | 現行・生産終了 | 約1.5〜1.9倍 |
| ロレックス ヨットマスター42(チタン) | 現行 | 約1.9倍 |
| ロレックス GMTマスターII(バットマン) | 現行 | 約1.4〜1.6倍 |
| ロレックス サブマリーナ 126610LN | 現行 | 約1.3倍 |
※倍率は集計サイト・時点・通貨・個体差により幅があります。特に円建て(国内相場)は円安の影響でドル建てより高く出る傾向があります(後述)。上記は2026年7月時点の目安です。
共通しているのは、ステンレススチール製のスポーツモデルだという点なんです。金無垢やダイヤ入りの高額モデルではなく、比較的手の届く価格帯の実用スポーツモデルにこそ、プレミアムが集中しています。理由はシンプルで、需要の裾野が広いからなんですね。
各モデルの詳細は、ノーチラス、アクアノート、ロイヤルオーク、サブマリーナ、ヨットマスターの各記事で解説しています。
逆に「定価割れ」するモデルもある
同じ超一流ブランドでも、モデルが違えば結果は正反対になります。ここを知っておくことが、「時計は資産」という言葉に惑わされないためにとても大切なんです。
| モデル | 対定価の状況 |
|---|---|
| パテック カラトラバ(6119R) | 中古が定価の約9割 |
| パテック カラトラバ(5227G等) | 中古が定価の6〜8割 |
| オーデマ ピゲ コード11.59 | 中古が定価の約6〜7割 |
パテック フィリップのカラトラバは、正規店では入手困難であるにもかかわらず、中古相場は定価の約9割です。「買えないのに定価割れ」という、ノーチラスとはまるで正反対の現象が起きているんですね。同じブランドでも、ドレスウォッチとスポーツモデルでは、市場の評価がまったく違うんです。
「有名ブランドだから資産価値が高い」という発想が、いかに大雑把かがよく分かりますよね。資産性を左右するのはブランドではなく、あくまで個別モデルの需給なんです。
実は、中古が定価割れするのが基本というモデルは珍しくありません。オメガ シーマスター、グランドセイコー、IWC ポルトギーゼ、ウブロ ビッグバンはいずれもそのタイプで、裏を返せば中古なら割安に手に入れられる時計です。それぞれの相場と選び方は個別の記事で整理しています。
市場は今どこにいるのか|2022年ピークからの推移

高級時計の相場は、株や不動産と同じように大きく変動します。近年の動きを押さえておきましょう。
2022年のピークと、その後の下落
コロナ禍の金余りを背景に、高級時計の中古相場は2022年3月頃にピークをつけました。この時期、ロレックス デイトナやパテック ノーチラスといった人気モデルは、投機的な資金が流れ込んで異常な高値をつけていたんです。
ところがバブルは弾け、そこから相場は9四半期以上にわたって下落を続けました。人気モデルの中には、ピークから30〜40%も下げたものもあります。「時計は必ず上がる」と信じて高値づかみした層が、大きな含み損を抱えてしまった局面ですね。
2024年末に底を打ち、2025〜2026年は回復基調
下落は2024年後半から2025年前半にかけて底を打ちました。そこからは、緩やかな回復に転じています。
モルガン・スタンレーとWatchChartsの市場レポートによれば、二次流通価格は2026年に入って4四半期連続で上昇しています(2026年第1四半期は前期比+1.9%、第2四半期は+1.5%)。追跡対象ブランドの7割超がプラス圏という広がりのある回復で、2020〜2022年のような投機ではなく、実需に支えられた「健全な回復」と評されているんですね。
一次市場(新品)と二次流通で温度差がある
ここで注意したいのが、新品市場と中古市場の温度差です。二次流通が回復する一方で、スイス時計の輸出額は2025年が前年比-1.7%、2026年上半期も-0.7%と、微減が続いています。中古相場の回復と、ブランドの新品出荷の鈍化は、別々の指標だということですね。
なぜ定価そのものが上がり続けるのか
資産価値を語るうえで見落とされがちなのが、定価そのものの上昇なんです。中古相場だけでなく、正規店の定価も年々切り上がっています。
ロレックスは近年、1月の年次改定に加えて、金相場や円安の影響が大きい年には年2回の改定を行っています。実際、2026年は1月と6月の2回、国内定価を改定しました。パテック フィリップのカラトラバも、2023年8月から2025年4月までの1年8か月で、定価が約25%も上昇しているんです。
この「定価が上がり続ける」構造は、中古相場の下支えにもなります。新品が高くなれば、中古の割安感が増しますからね。ただし裏を返せば、購入を先送りするほど取得コストが上がり続ける、ということでもあるんです。
円安が国内の倍率を押し上げている
日本国内で相場を見るときに、必ず理解しておきたい要素が為替です。
近年の円安によって、海外の富裕層にとっては日本で買う時計が割安になっています。この需要が国内相場を押し上げるので、円建ての対定価倍率は、ドル建てよりも高く出る傾向があるんですね。たとえばパテック ノーチラス5711は、円建てでは定価の約5倍でも、ドル建てでは約3.4倍。このように、通貨によって倍率が変わってくるんです。
「国内で定価の何倍」という数字だけを見て判断してしまうと、為替が反転したときに評価が変わる可能性があります。相場を見るときは、それが円建てなのか外貨建てなのかを意識しておきましょう。
資産として持つときの実務的な注意点

もし資産性を意識して時計を持つなら、価格以外にも押さえておきたい実務があります。
付属品と真贋がすべてを左右する
中古市場では、保証書・箱・付属品の有無が価格を大きく左右します。パテック フィリップの保証書のように、一度失うと二度と再発行されないものもあるんです。また、超高額モデルほど精巧な偽物が存在するので、真贋の確認は必須。出所のハッキリした個体を、信頼できる販売店から購入するのが基本になりますね。真贋の見極めについては偽物の見分け方もご覧ください。
研磨・オーバーホール・保管
過度な研磨は、資産価値を損なってしまいます。ケースのエッジが丸まった個体は評価が下がるため、未研磨の状態が好まれるんですね。また機械式時計である以上、定期的なオーバーホールが必要で、その費用も保有コストに含まれます。保管時は湿度や磁気を避け、高額品なら動産保険の検討も現実的です。
「資産」と考えるなら流動性も見る
いざ売るときに買い手がつくか、という流動性も大事なポイントです。人気のステンレススポーツモデルは売却しやすい一方で、ニッチなモデルや高額な金無垢モデルは、売りたいときにすぐ現金化できるとは限りません。
まとめ
- ほとんどの高級時計は値上がりしない。定価を上回るのはごく一部のモデルに限られる
- プレミアムが集中するのは、ロレックス・パテック・APのステンレススポーツモデル
- 同じ一流ブランドでも、カラトラバやコード11.59のように定価割れするモデルもある。ブランドではなく個別モデルの需給で決まる
- 相場は2022年にピーク、2024年末〜2025年前半に底、2025〜2026年は回復基調
- 定価そのものが年々上昇しており、それが中古相場を下支えしている
- 国内の対定価倍率は円安で高く出やすく、為替の影響を受ける
- 付属品・真贋・研磨・流動性といった実務が、資産性を大きく左右する
「高級時計は資産になる」は、半分は本当で、半分は誤解——というのが正直なところです。値上がりする一握りのモデルは確かに存在しますが、それは全体のごく一部にすぎません。時計を選ぶときは、資産性という物差しだけでなく、まず「自分がその時計を心から欲しいと思えるか」を基準にするのが、後悔の少ない選び方だと思いますよ。
個別モデルの相場や入手性については、パテック フィリップが買えない理由、ロレックスをどこで買うかもあわせてご覧ください。
※本記事は2026年7月時点の市場データにもとづく一般的な情報提供であり、投資助言ではありません。相場は変動し、将来の価格を保証するものではありません。年間生産数・市場データはモルガン・スタンレー等の推計・集計にもとづきます。購入・売却の判断はご自身の責任で、最新の情報をご確認のうえ行ってください。